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祈り

800余年の昔、海峡で流された大量の血も、今はもはや極彩色の絵の中に見るだけのものとなりました。

そこには歴史のロマンだとか、滅びの美しさだとか、そういった遠いものとしてあの戦をとらえる向きがあるように感じられます。


一門が、そして多くの武士や名も無き民衆が、この戦で命を落としています。
彼らはどれほど無念な思いを残してこの世を去ることとなったのでしょう。
今の私たちには想像もできないような、過酷な時代であり、戦であったのです。


「こんな風になるはずではなかったのに」


未来ある子供たちも、将来を担っていくはずの若者たちも、次代に何かを伝える使命を持った大人たちも、みんな志半ばでその命を終えていきました。

彼らにもきっと、夢や希望があったことでしょう。大切な家族、愛する人もいたことでしょう。守るべき家や土地のためにやむなく戦いに参じた者も多かったかもしれません。


彼らはいったいどんな思いで戦陣を駆け抜けたのでしょうか。

何を思いながら刀を振るい、矢を射掛け、そうして力尽きていったのでしょうか。


美しい物語として語られる平家物語からは、武者たちの断末魔のうめき声も、女房たちの悲痛な叫びも聞こえてはきません。

血に染まった甲冑や、打ち捨てられた躯、水に漂う紅の旗を今の私たちが目にすることもありません。

 

けれど、たとえどんなに長い年月を経たとしても、そういった光景がいたるところで繰り広げられていたのだという事実には変わりがありません。
それを思うとき、私はやりきれないような、切ない思いに胸が締め付けられます。

私は縁あってこのように平家一門を紹介しております。

また、古戦場や史跡を訪れることも数多くあります。

しかしそうした中に、彼らに手向ける祈りを忘れてしまってはいけないと強く感じております。

それは何も特別なことをする、と言うのではなく、心をこめた哀悼の気持ちを運ぶことであると信じます。

 

敬虔な気持ちを失い、古戦場で大騒ぎをしたり、史跡にいたずらをしたり、また、その地にあるものを勝手に持ち帰るなどの行為をされる方がいらっしゃるのは本当に悲しいことです。


あなたがもしどこか、たとえば源平の古戦場や史跡に足を運ばれることがあれば、心の中だけでもそっと手を合わせていただければと私は思います。

 

今は亡き方々へ向ける「どうか安らかに」という気持ちは、きっと一筋の光となって届くことでしょう。

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