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「藤原経忠家盗賊征伐」

ある夜のこと。あたりを包む騒然とした物音に清盛はとびおきた。寝所のとびらをあけると郎党のひとりがひざまづいた。「若君。左京太夫藤原経忠の屋敷に盗賊が押し入りましてござりまする」その声とともに清盛はすのこに走り出た。経忠の屋敷は火をかけられたのであろう、夜空が赤々と染まっているのが見えた。清盛は不動五、不動六を伴って、風のように走り出た。経忠の屋敷は火の粉に包まれていた。賊は14,5人ほど。三人は屋敷に突入すると賊を切り払い、切り払い奥へ進んでいった。不意に現れた巨大な人影は清盛に襲い掛かった。その者こそ、漆の作地場や工人を騙し取られた恨みを晴らすべく押し入った賊の首領であった。恐るべき怪力で清盛に太刀がたたきつけられた。清盛は必死にこれをかわし、相手の隙をついて男を蹴り上げた。清盛は反撃に転じ、相手を蹴り上げ、ついには自分のこての紐で男をしばりあげた。

 

清盛は男を縁側に据えた。
「ちかごろ珍しい武勇の者じゃ。その気概、天晴れである」
男は石のように押し黙っていた。やがてその場で酒盛りが始まり、男の前にも酒が廻ってきた。
「おぬし、わしに仕えぬか」
清盛の言葉に男は目を見張った。
「あのようなことをしでかした以上、もはや国には帰れまい。しかも検非違使に追われる身じゃ。いっそ、わしの家来となれ」
それを聞いていた不動五、不動六は顔を見合わせてにやりと笑った。男は少しの間困ったような顔をしていたが、形を改め地面に手をついた。

 

もったいないお言葉でござる。御家人の端にでも加えてくだされば、まことにありがたき幸せにございまする」
ここに、後年頼朝の心胆を寒からしめた古市伊藤武者行正が誕生したのであった。
 

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