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「清涼殿あやしの大鳥退治」

久安元年。近衛天皇は毎晩のようにうなされるようになった。盛大な加持祈祷が行われたが何の効果もなく、帝は憔悴していくばかりであった。陰陽博士によれば、おそらくもののけの仕業だろうとのことであった。廷臣はさっそく帝に尋ねた。しかし、帝は首を振るばかりで何も話そうとはしなかった。押して、三度尋ねると、帝は恐ろしそうに声をひそめてお答えになった。

 

「毎夜、清涼殿の屋根に、恐ろしい鳥がとまって鳴いておるのじゃ…。こうしていても絶えず鳴き声が耳に聞こえてくる…。だれぞ、かの鳥を追い払うものはおらぬのか…」
宿直の者に清涼殿の屋根を見に行かせたが、夜鷹一羽の姿も無かった。公卿達は顔色を失った。まさしくもののけの仕業であろうと思われた。そこで、またしても清盛にもののけの退治を言いつけた。
清盛はまたか!と思ったが辞退することは許されるはずはなかった。清盛は小烏丸と重籐の弓、3本の矢を帯びただけの姿で参内した。
夜もふけゆく頃、俄かに帝が苦しみ始めた。清盛は清涼殿の前に立つと屋根を見上げた。しかし、やはりそこには何者の姿も無かった。清盛は大きく頷くと殿中へと戻った。
「謹んで申し上げます。清盛、清涼殿の御屋根を見まするに、まことに怪しき大鳥が一羽、羽を休めておりまする」
公卿達は驚いた。彼らはこれまで帝に、御気のせいであるから、気をしっかり持っていただきたいと繰り返し力づけていたところだったのである。帝は大きく身を乗り出された。
「して、それはいかなる鳥か?」
「頭は馬。胴体は太鼓のごとく、その太さは三抱えほど。尾は蛇。翼はおよそ五間はあるやに思われます」
人々は恐怖の声をあげた。
「よいか、清盛、必ず退治せよ。よいか・・・」 終わりは震えて声にならなかった。
しばらくすると、帝はうつらうつらし始めた。額は脂汗にぬれ、体が硬直すると、高いうめき声をあげ始めた。
清盛は静かに庭へ出た。重籐の大弓に矢をつがえるときりきりと引き絞った。こどものこぶしほどもある大きな矢じりが空へ吸い込まれた。間髪を入れず第二の矢を放った。
清盛は殿内に戻ると、帝は眠りからさめたところだった。
「清盛、かの鳥を打ち落としてございまする。ふたたび主上のお眠りを妨げることはぞざいません」
帝のお喜びはひとかたならぬものがあった。しばらくすると、蔵人頭から、御所の裏門より木の葉やむしろで覆われた異様なものが搬出されたという報告があった。人々は震え上がった。清盛は大いに面目をほどこして退出した。途中で、夜明け近い道を異様な者をになって走ってゆく一団に追いついた。
「よし!もうよいぞ!そのようなものは投げ捨てい!」
担いでいた連中は「おう!」と声をあげると木の葉もむしろもばらばらにして投げ捨てた。不動五の哄笑が爆発した。皆、清盛を囲んで走り出した。帝を悩ませた悪夢はその夜をもって、二度とあらわれることは無かったという。

 

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