top of page

「清盛の前世」

清盛は多くの人に悪人といわれたけれども、古い人の申されたことには、実は「慈恵僧正」の生まれ変わりであるということであった。

 

摂津の国に清澄寺というお寺があった。その寺に尊恵という僧が住んでおり、人々に尊敬されていた。あるとき尊恵が法華経を読誦していると、夢とも現実とも分からないが、閻魔庁のお使いという者が立文を持ってやってきた。それは、閻魔庁からの招待状であった。約束の日、午前2時ごろになると、前のように閻魔庁から使いのがやってきた。閻魔王は
「ほかの僧は皆帰ってしまったのに、どうしてお前はここへきたのか」
と尋ねられた。
「死後の世界で生まれ変るところをうかがうためです」
閻魔王はいろいろな話を尊恵に説いた。また、これまでに尊恵が行った善業を一つ一つ記した碑文を読んで聞かせた。尊恵は悲しみ歎き、
「お願いですから、私を哀れみ解脱する方法を教えてください。大きな悟りを得る近道をお教えください」と訴えたので閻魔王は憐れみをたれ、偈を授けた。尊恵はたいそう喜んで、
「日本の平大相国と申す人が攝津の和田の岬を選定して、今日行われた十万僧会のように大勢の僧をいっぱいに座らせ説法、読経をさせ丁寧にお勤めなさいました」と申し上げた。閻魔王はうなずいた。
「あの入道はただの人ではない。慈恵僧正の化身だ。天台の仏法を護持するために日本に再び生まれたのだ。それゆえ、私が日に三度、その人を礼讃して読む文がある。この文を持ち帰って、その人に差し上げよ」
    

敬礼慈恵大僧正 天台仏法擁護者
    示現最初将軍身 悪行衆生同利益


尊恵はこれをいただいて帰ると西八条へ向かい、清盛にお渡しした。清盛はひととおりでなく喜び、様々にもてなし、褒賞に律師にされたということであった。それで、人々は清盛が慈恵僧正の生まれ変りであると知ったのであった。


 

​お問い合わせ・ご意見
  • Facebook
  • Twitter
  • YouTube
  • Pinterest
  • Tumblr Social Icon
  • Instagram
©2019 花のかんばせ 無断転載禁止

Success! Message received.

bottom of page